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”全映画は3つの部分に分かれる” 基本的にネタバレなし、映画館鑑賞作のみの感想[評価/批評/あらすじ]。適度な長さとわかりやすい言葉でのレビューとなることを心がけてます。(☆は最大5。3以上で傑作)

映画「海街diary」感想 <そして家族に>

後から原作は途中まで読んだ。あれがこうなるとは。マンガ原作を”トレース”しようとして失敗する映画が多い中、原作にあるコミカルさに引っぱられずに物語のエッセンスを捉えて是枝印にうまく"作り変えていた"のはさすが

日本家屋を活かす薄味かつ上品な絵作りが中心でありながら桜、花火シーンはじめ決める所は決めた「撮影」、長澤まさみの進言により選ばれたサントラの名手による「音楽」、完璧としか言いようのない主要女優の「キャスティング」、明るい絵とは裏腹に"死"を物語の下敷きに置き全体を引き締めた「構成」。それらのハマり具合は言うまでもなく、安易にお話の盛り上げに逃げずに家族が一人増えるまでをじっくり描き切ったのが素晴らしかった。台本を渡さずに演出したという広瀬すずの演技をはじめ、何度も観たくなる演出や美術などディティールの丁寧さが全編に行き届いていたのもよかった。

ビジュアルの美しさから上等な文芸作品のように思われるけど、血のつながり云々で冠婚葬祭で揉めるとか、家族間の微妙な愛憎とか服が似合う似合わないの些細な兄弟げんかまで陰陽含めて「家族あるある満載」で誰しもニヤニヤできるし、鑑賞後はそれだけでアレはウチと同じだと観た人と語り合えるのもポイント。

ただスター俳優のカメオ的出演が多すぎてもう首元がジャラジャラになっていたのはいただけなかった。活躍と演技を知っている俳優な分、こんな出番数で本当に役のキャラクターを消化しているのかとか考えて鑑賞のノイズでしかなかった。監督の幼稚な自慰行為以上の作品に対するメリットがあるとは思えない。そろそろこういうのは卒業してはいかがでしょう。

あと三姉妹のうち一人がワケありなアレをしてるって、どんだけ創作物にありがちなんだよと思ってしまった。そこは外してほしかったな。あの人の境遇にリンクしてるってのはわかるけども。また長澤まさみ自身がマジメすぎるのか、奔放な次女役を今ひとつ"やり切れていない"のも気になった。

つっこみが少し多くなってしまったが、濃密すぎて一度では消化できなかったので近いうちにもう一度観たいくらいに満足。鑑賞直後のインパクトは少ないかもしれないけど、余韻に浸って何日もじっくり噛みしめられる映画。

 

☆4.0