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”全映画は3つの部分に分かれる” 基本的にネタバレなし、映画館鑑賞作のみの感想[評価/批評/あらすじ]。適度な長さとわかりやすい言葉でのレビューとなることを心がけてます。(☆は最大5。3以上で傑作)

映画「バクマン。」感想

<週刊少年漫画誌の凄さと恐ろしさ>

 

原作未読、ただいわゆる黄金期には毎週ジャンプを読んでいた人です。

 

期待せずに観に行ったら小中学生から大人まで観る漫画原作映画というエクスキューズはありながら良かった。友情努力勝利を具現化した青春モノ映画と、クリエイターの産みの苦しみを描いた職業モノ映画、の見事なハイブリットを決めた、邦画の良作!

 

原作者が業界を知り尽くしているっていう最大利点はあるけど、「週刊少年漫画誌の凄さと恐ろしさという正と負の両側面」「漫画は漫画家が魂を削って紡ぎだした結晶」であることを甘すぎず、重すぎずの絶妙なバランスで2時間の娯楽作に収めていた。その辺はデスノートの作者によるさすがの原作の出来の良さもあるなと。

 

また人気が無ければ打ち切りの「アンケート至上主義」という少年ジャンプの「歪なシステム」を晒すだけでなく、きちんとそれに苦しみ、漫画家とともに歩む編集者たちの視点と仕事も描いていたのが良かった。

 

白眉は殺陣シーンに殺陣師をつけるように、プロの漫画家の指導をきっちりつけてもらったという大根監督の漫画愛の伝わる描写のこだわりの数々。「漫画で漫画家の物語を描くという難業をこなした原作、を映像化する」上での映像側からのアンサーとも言える、あるVFXギミック(漫画家の頭の中をイメージしたという)を漫画描写に使っていたのは、あまりの物語の省略っぷりに苦笑しながらもとても楽しめた。

 

とかく地味になりがちな映像と物語を現代風の軽やかなビートで彩り続けたサカナクションの劇伴と音楽も良かった。それとは対照的に物語を引き締め続けた「剣劇を思わせる」漫画家が魂を削って走らす「ペンの音」を徹底的に入れた音響効果もナイス。

 

好きなシーンなのが染谷将太演じる新妻エイジの終盤のとあるシーン、あれは焦りなのか優しさなのか、深みがある。一見してどっちかわからないところが彼の演技らしい。

 

難点は「週刊少年ジャンプ」が昔も今も(!)「少年漫画の王様」みたいなくだり。これには「いつの話だ…」と若干眩暈がしながらも目をつぶった。業界は「出版不況の嵐」が吹き荒れる中、お話がジャンプ黄金期で止まっていて「ファンタジー」になっているのがもったいない。原作の叙述をそのまま持ってきたんだろうけど、その辺映像化にあたってバランス感が欲しかった。

 

ソツがなさすぎると冷笑気味に評する人もいるけど、書籍原作のメジャー予算で普通に観れる、ソツがない映画を作れる監督が国内に何人いるだろうか。書籍映像化の成功作、漫画が好きな人、好きだった人はぜひ。

 

☆4.0

 


「バクマン。」予告 - YouTube