東京映画帝国

”全映画は3つの部分に分かれる” 基本的にネタバレなし、映画館鑑賞作のみの感想[評価/批評/あらすじ]。適度な長さとわかりやすい言葉でのレビューとなることを心がけてます。(☆は最大5。3以上で傑作)

「悲しみの忘れ方 DOCUMENTARY of 乃木坂46」感想 <娘を持つ親世代にこそ響くのでは>

某冠番組を毎週観ている程度の知識です。

 
最近では珍しくない「アイドルドキュメンタリー」今回 どういう切り口を提示するか心配だったけど、この映画は、アイドルグループの結成から現在までの歩みにメンバー母親の語り(娘への想い)を織り込むという「着想」の勝利だった。これに尽きる。このおかげで"刹那的な"アイドルの物語でもあり、"普遍的な”母娘の物語でもあるという重層的かつ、オリジナルな「映画」になった。これは傑作母子映画「Mommy」に近い感じで、これは年頃の子どもを持つ「親世代」にこそ響くのではないか。本筋がグループの歴史を追うのに駆け足気味、やや平凡だっただけに、これがなかったらどうなっていただろう。
 
大人から課されるグループ内での競争につぐ競争で、必要以上に「自分らしさ」に悩み、苦しむ彼女たち。「きれいっていうのは才能なんだからね」という樹木希林海街diaryの撮影時にあの四姉妹役の若手女優に言ったという言葉をかけてあげたくなった。あなたたちは既に素晴らしいものをもっているじゃないかと。ここは「自分らしさ」とか「オンリーワンであること」が過度に期待される「現代日本社会の縮図」としても誰しも共感できるところではないだろうか。
 
中身としては、監督がPV中心だけあってインタビューパートでのメンバーや、カットインされる風景の美しい切り取り方は大変素晴らしく、アイドルドキュメンタリーなのに映像そのものの品位の高さに惚れ惚れするという不思議な体験をした。加えて、自身が撮ったわけではない「メジャーアイドル数年分の映像資料」を元にドキュメンタリーを作るという無茶なオーダーにもきちんと形にして答えたのにも評価したい。
 
ただアイドルをドキュメンタリーとして撮るときに「大人(運営)」が不自然に出てこないのはズルいなと、この手のを観て毎度思う。「ドキュメンタリー」と銘打っていながらまだ大人の出てこない「ファンタジー」を気取るのですかと。
 
(あと本家もやっているとはいえ)大人数グループだからって数人にフォーカスして映画にするっていうメソッドは「逃げ」だ。当然とっ散らかるのはわかるけど、ギリギリ不可能じゃない人数なんだから、やはり全員の顔と声(コメント)を少しでも入れるべき。だってそういうグループなんだから。タイトルにグループ名を銘打っておいて大多数をクレジットのみで済ますのは酷だ。
 
色々不満もありながらも、ラストのリフレインでの「悲しみの忘れ方」の「答え」(とそれに含まれる不祥事を起こしたメンバーへのちょっとしたどんでん返し)にはグッと来た。