「イットフォローズ」感想 <指に中途半端なタトゥーをしちゃうような頭の軽い女の子に何か起きても何も感じない>
某所で激賞されてたからかなり期待してたけど、普通のホラー映画の域を出ない映画だった。
怖さだけの、特にドラマのないホラーは嫌いな人なので、事前情報でも出ている「アレをするとアレに追いかけられる」以上のことが見えてこなかったのは残念。モチーフとしては単純にアレをして移るからアレなんだと思うけど。とどのつまり「指に中途半端なタトゥーをして、誰とでも寝ちゃうような頭の軽い女の子」に、何か起きても何も感じないんだよなー。笑いどころなのかわからない下品なシーンも多くあってノレず。ホラーが好きな人は、そういう軽い所とかツッコミどころも含めて楽しんでるんだろうけど。
そして映画音楽は初というディザスターピースによる「レトロゲーム感を取り入れたハイファイシンセサイザー音楽」とホラーの組み合わせは斬新で最高、映画館で観てよかった。音楽だけ突出してイイのでやや浮いてるとも言えるくらい音楽にだいぶ助けられてる。
ただ撮影がデジタル感ありありなのが雰囲気に合ってないし平凡。ハイファイ音楽の使い方が近いニコラス・ウィンディング・レフン監督の「ドライヴ」みたいな雰囲気でやりたいなら、もっとセンスのいい撮影監督を連れて来て、「ビジュアル面」でもこだわりを見せて欲しかった。
☆2.0
町山智浩がホラー映画『イット・フォローズ』を語る - YouTube
映画「ブリッジ・オブ・スパイ」感想 <規則を守ることがアメリカ人の証である>
"誰であろうと公正な裁判を受ける権利がある。そして、憲法に忠実であることが、アメリカ人がアメリカ人たる根源である。規則を守ることがアメリカ人の証である"
"冷戦下スパイ交換の顛末"という性格上、わかりやすい娯楽性は薄いけど、法廷劇、人間ドラマ、外交的駆け引き、トムハンクスのジョークやギャグシーン(笑)など「ビター」な面白さが詰まっていて見応えのあるいい映画だった。
まず自由と正義の国アメリカですら、公正さのために敵スパイの弁護をする弁護士に嫌がらせがあったり、決して一枚岩ではなく、心ある少数の人の「不屈の精神」で何とか保たれているんだなと知ることができた。そして米国の代名詞のような「法の下の平等」「自国民は自力で救出する」ことが世界ではさほど、米国ですら当たり前でない現在だからこそ意味がある映画。時に嘲笑われながらも「規則を守ることがアメリカ人の証である」こう世界に言い続けるって簡単じゃない。なんていうか一周回ってアメリカ・民主主義万歳って言って行かなきゃいけない時代が来た感じなんだよね。
個人的には、東ドイツ側の交渉担当の今話している相手が実際はソ連の高官なのか何なのか「本当は誰か」わからないっていう描写が新鮮だった。あと「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」のように駆け引きの末の「結末」が、本当にハッピーエンドと喜んでしまって良いのか悪いのか、最後に字幕で出るまで分からない緊迫感がよかった。あとアベル役のマーク・ライランスの抑制の効いた演技が最高、監督の次回作にも出るようで期待。
「戦火の馬」とか「ターミナル」とかファミリー向けにエンタメ方向に振り切ることの多い監督でその甘さが苦手だったけど、今回は甘さ成分ほぼ無しでビシっと決めていてスティーブンスピルバーグ監督の本気を見た。
☆4.0
盛り気味の日本版テレビCMよりいい。
映画「母と暮らせば」感想 <戦中、戦後を知っている映画監督があと何人いるだろう>
評判がいいのと「小さいおうち」から再びの山田洋次監督&黒木華出演ということで観てきた。
まずこの超ベテラン監督が、お話の下敷きにサラッと「長崎、キリスト教、原爆」っていう誰しも言わないようにしてるネタをぶっこんできたのはすごいなと(笑)「日本におけるキリスト教の代名詞のような街にキリスト教国が原爆を落とした」ってよく知らない外国人が観たらギョッとするんじゃないだろうか。劇中の一節「小倉に原爆投下のはずが天候不順で長崎になり、長崎も同様に中止になりかけたところ、一瞬だけ晴れ間が差して投下された。」論理的に関係性は無いにしてもこの文脈で改めて知らされると色々考えてしまうなー。
お話は「原爆で死んだ息子が数年後母に会いに帰ってくる、そして恋人のことも気がかり…」という普遍的なもので、親と子両方の気持ちのわかる親世代はじめ、肩肘張らずに誰しも響くものがあると思う。そういう話の本筋上、基本的に会話が中心なんだけど、当時の生活風景とか、所作がいちいち新鮮だし、吉永小百合、二宮和也、黒木華、上海のおじさん(笑)はじめ実力派俳優だらけなだけあってその演技の競演にずーっと退屈しなかった。中でも二宮くんのちょっと癖のある演技と、この監督独特の古くさいセリフ回しの若者キャラが当時の時代感にちょうどマッチしていて本当にそういう人物がいるかのようだった。
このタイミングでこう撮るかという感じの迫力の映像と音響による原爆描写が新鮮だった。かといって政治的に何かを批判するわけでもなく「戦争をして身近な人が一人死ぬってどういうことか」ってことを物語の中でさらっと見せてくれたのが新鮮だった。戦中を知っている映画監督に、あの戦争を伝えるってそんなに肩肘張らなくていいんだなって教わったかのよう。観てよかった。
☆4.0
映画「クリード チャンプを継ぐ男」感想 <その名に誇りを持て>
ロッキーシリーズの大ファンという監督の作品だけあって「アポロの子がボクサーに、あのロッキーがトレーナーになる」というファンならシビれる設定が最高。完全にアップデートされた定番の「ランニングシーン」「ニワトリ追いかけトレーニング」など入れこむべき要素も一通り入っていて素晴らしかった。
「スターウォーズ フォースの覚醒」感想 <止まらない悲しみの業(カルマ)、この物語を続けるということはこういうことだった>
"歴史は繰り返さないが、韻を踏む"
なんだ最高か。
上述の言葉のように、偉大な旧作のただの"繰り返し"もしくは"完全スルー"ではなく、一級のラッパーのように軽やかにリズムに乗りながら、絶妙なセンスで言葉を変えきちんと旧作にリスペクトを捧げて、物語を紡いでいたのが素晴らしかった。それでいて「あの人とあの人があれで」っていうわりと知っている人は知っている既知の展開を<どまんなか勝負>で観客とこの物語を「未来」に連れて行ってくれたJJエイブラムス監督、おつかれさま。あとは新三部作のトップバッターを務める監督の特権でスターウォーズの「良いところ」を先にごっそり持って行ったなーと。ずるいぞw、これこの後どうするんだろう(笑)
暗くなりがちな物語に明るさを与えてくれた主人公レイを演じるデイジー・リドリーの美しくも素朴さのある立ち居振る舞い・雰囲気、BB-8のなぜ上映前にあまり推さなかったんだというくらいのかわいさらしさはじめ、新登場人物(メカ)のキャスティングとキャラクターの絶妙さもよかった。劇場で歓声の上がったハン・ソロら旧キャスト陣の再登場の味わい深さは言わずもがな。(たしかディズニーに売却時だかにジョージ・ルーカス監督が出てくれるか?ってあらかじめ話通してたんだよね。)
難点として誰しも気になる「あのキャラクター」のスケールの小ささには苦笑。でもまだまだ新シリーズの序の口ということで寛大に、あえての今後の伏線だと思うことにしておこう。あと「007スペクター」ほどでないにしろ、次はコレ、次はコレという感じの「オマージュのスタンプラリー」になってるのは否めず、合わない人もいるかも。
要所、要所のポイント、全体のバランスともに「これしかない」という感じでテンション上がったし、監督の「未来志向」のメッセージに乗れたのは間違いないんだけど、ただこの「物語」を続けるということは、また一作ごとに何かを失い、悲しみとともに旅を続けるということで、「本当にこれ(続編製作)がよかったことなのか?」という思いも沸々と湧き上がってしまっている自分もいる。
少しでも思い入れのある人は、「踏み絵」と言われるとてもキャッチーなネタバレを踏む前に、ネットを遮断し可及的すみやかに観に行くことをおすすめします。その踏み絵に悲鳴をあげている人もいるようだけど、新三部作世代の自分としては一緒に未来に行けそうです。
☆4.5
「007スペクター」感想 <500系のスカイフォール、700系のスペクター>
007原体験は世代的にピアーズ・ブロスナンなんだけどその鈍重さに苦手意識が生まれていて…。諸々ブラッシュアップされているクレイグ版シリーズ、「スカイフォール」すらいまひとつノレなかった人なので、今回はなおさら。
うーん、今年「しがらみ」や「シリアスさ」の少ないあのスパイ映画とか、あのスパイ映画を観た後だと、一層長寿シリーズ故のしがらみに囚われてるのが透けて見えてきちゃったな。この歌舞伎や落語のような、展開がわかっていてもオマージュや過去のパフォーマンスと比較して観る「様式美」の鑑賞会のようになっているのが果たして映画として良いことなのだろうか?
ただ原点回帰的な作風の転換云々より、胃もたれするくらい要素を詰め込みすぎなのが問題だと思う。00部門の解体とボンドのアイデンティティを問うっていう主軸も前回やったような話だし。それでも撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマの本領発揮と言わんばかりのCG無しの大迫力「死者の日」パレードの、長回し風アバンタイトルとか要所、要所で素晴らしいシークエンスがあるだけに残念。
過去作へのリスペクトを感じさせるローファイな映像と美術、衣装も悪くはないんだけど、(スペクターを観て改めてスカイフォールを観ると、)007シリーズは様々な理由で常にClassicalなものと切っても切り離せないのだから「映像」くらいはキレキレの解像度の<最先端>の方がバランスがいいなと思った。
まぁやっぱりストーリーもそうだね、過去作への目配せは程々に、常に007にはトレンドを追いかけて最先端を走っていてほしい。三歩進んだスカイフォールから二歩下がった感じは否めない。でも東海道新幹線でいうと最高速度を突き詰めた500系から、700系で従来からのデザインに回帰、速度より全体のバランスに重点をシフトしたみたいに悪いところばかりでもないんだけどなー。うーん堂々巡りになってしまうな、難しい。
☆3.0
「リトルプリンス 星の王子さまと私」感想 "心で見た時に本当のことがわかる"
評判が良かったので鑑賞したけど大スクリーンで観ておいてよかった。(「インターステラー」の娘役の子が主演声優と知ってにわかに興味が湧いたのは内緒。)
小学生くらいの女の子の抑圧と成長、という方向性としては「インサイドヘッド」に近いものがあるけれど、こっちの方が映像的にも物語的にも完全に”突き抜けた”シーン、"ワンダー"がしっかりあり、満足度が高かった。「心で見よ」というテーマ通り、(中盤以降は)本当に辻褄がどうとか考えるのが馬鹿らしくなって、つい夢中になってしまった。
お話そのものの品質の高さはもとより、メジャースタジオでなくとも3DCG表現はここまで来たかという美麗なグラフィックスを使った現代パートと和紙の人形を使ったという昔ながらの「ストップモーションアニメ」の星の王子さまの物語パートのどちらも美しく、その絶妙な融合が素晴らしかった。これは「現代アニメーション表現の一つの到達点」だと思う。
本編は、大人の凝り固まった心を王子さまが子どもの目線でときほぐす「星の王子さま」の物語構造が立場や人物を入れ替えてミルフィーユのように何重にも重なっていて味わい深さはあるんだけど、ただちょっと複雑で後半登場する大人の発言には何が何のメタファーなのかちょっとわからなくなってしまった部分も…。これは子どもが観ていてついていけるのだろうか…。
「ディズニー・ピクサー」へのカウンターとしてもチェックしておいたほうがいい一作、3DCGアニメの傑作がまた一つ誕生だ。
☆4.0