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”全映画は3つの部分に分かれる” 基本的にネタバレなし、映画館鑑賞作のみの感想[評価/批評/あらすじ]。適度な長さとわかりやすい言葉でのレビューとなることを心がけてます。(☆は最大5。3以上で傑作)

”健康が大切ということ” 「モヒカン故郷に帰る」ネタバレなし感想レビュー

監督の作品出演経験者ばかりの独りよがりの配役ではなく、きちんと人気俳優を配しての笑って泣けるドタバタホームドラマ。松田龍平前田敦子柄本明もたいまさこ千葉雄大、名前を挙げたくなるほどみんなよかった!プラス「横道世之介」の監督、この座組でおもしろくないわけないよね。

 

ストーリーは中身の無いモヒカンロッカーが彼女の妊娠を機に故郷に帰るも、父親が病に倒れ予想外にも長く残ることになった中で父親のやりたいことを叶えていく話。

 

モヒカン、コメディというので軽く見られがちだけど、大人になってからの老いた父親と息子の関係性、「健康が大切」「親って死ぬんだな」というテーマは安易に取り上げたものではなく、あぁ監督がそういう経験をしたのかな?と思うほど、各所にリアリティがあり地に足がついていて感心、この辺は大人であれば誰しも心に覚えがあるはずで普遍的に観る人の心を打つ。息子役が父親を早くに亡くしている松田龍平っていうのも彼の心情を色々考えてしまうな。

 

でも湿っぽいばかりではなくて笑えるシーンもたくさんあった。中でも矢沢永吉ワナビーの胡散臭い柄本明お父さんが、コーチをする吹奏楽部生徒たちとのエピソードがいい。入院中、病院屋上でこっそりタバコでも吸うかと思いきや、奇跡的に対面だった学校屋上の吹奏楽部の指揮を執り練習をみる…。瀬戸内海をバックにした美しい光景にウルっとしかけたらデブ女子リーダーが「コーチ、海風で楽器が錆びまぁーす!錆びまぁーーす!!」と叫ぶのが最高、これだけで青春映画1本できるじゃん!「南極料理人」ではイマイチハマらなかったけど今回は、ユーモアと泣きのバランスが本当によかった。

 

あと前田敦子は完全に「もらとりあむタマ子」につづく"俺たちの前田敦子"案件で、強烈な寝顔の「初登場シーン」から最高。彼女は突飛な役より、普通だけどだらしない(でも最低限の常識はある子)女子役があってるな。沖田修一監督わかってる!あと柄本明すごい。もし大手配給入ってたら今年の「賞総ナメ」だったんじゃないかこれ。

もう一回観て、あの家族に会いたいなー。満点。

 

☆5.0


映画『モヒカン故郷に帰る』特報

監督脚本

沖田修一

製作

横澤良雄
川城和実
三宅容介

松田龍平/田村永吉

柄本明/田村治
前田敦子/会沢由佳
もたいまさこ/田村春子
千葉雄大/田村浩二

製作年 2016年
製作国 日本
配給 東京テアトル
上映時間 125分
映倫区分 G

<3時間の黒木華プロモーションビデオ>「リップヴァンウィンクルの花嫁」ネタバレなし感想

評判よかったからかなり期待していたんだけど、前半のリアル路線と後半とのバランスが悪い上に、突っ込みどころ満載でまったく乗れず。「映画」としてはずっと退屈だった。ただ撮影のセンスと主演女優は素晴らしく、180分の映画としてではなく短編5分×36の「黒木華」プロモーションビデオとしてはよかった。前半はリアルでそこからファンタジー調に変わるという手法はあるんだろうし、その辺が監督の個性なんだろうけど、ごめんなさい「ここはどこなんだろう」のシーンとかありえなさすぎてまったくハマりませんでした。

 

唐突な超有名クラシック曲の挿入、Coccoが突然ベラベラと「この世界はさ―」と「イタい語り」をしちゃう、この人の村上春樹的というか「セカイ系」的な語り口って文章とか漫画アニメまでならいいんだけど、現代日本を舞台に実写にしちゃうと(相当上手くやらないと)観てて恥ずかしくなっちゃってダメだわ。いつまで20世紀末みたいなことやってんだろうね。

 

蒼井優似の黒木華蒼井優起用の代名詞みたいな監督が、評価が固まった頃に使うのもあからさまで能がないし。「永久に撮っていたかった」発言とか気持ち悪すぎ。彼女は悪くないんだけど。

 

ガンダムに明るくない人に、一つお伝えするとアムロレイは「ランバラルの友達」じゃないです。

 

気の優しい女の人は「こういうやつに気をつけろ」というメッセージなのかな。

 

☆1.0


『リップヴァンウィンクルの花嫁』予告編


監督 岩井俊二の”今”語ること---『リップヴァンウィンクルの花嫁』独占インタビュー

監督原作脚本

岩井俊二

エグゼクティブプロデューサー

杉田成道

プロデューサー

宮川朋之

キャスト
黒木華/皆川七海
綾野剛/安室
Cocco/里中真白
原日出子/鶴岡カヤ子
地曵豪/鶴岡鉄也

製作年 2016年
製作国 日本
配給 東映
上映時間 180分
映倫区分 G

<魂で殴り合うように> 「ちはやふる 上の句」ネタバレなし感想

原作はさわりだけ読んだ。日テレの実写映画化っていいイメージないんで期待していなかったんだけど、評判通りちゃんと爽やかで瑞々しくも熱い青春部活ムービー、に相応しい納得の撮影・照明諸々のクオリティで、競技中のスーパースローモーションカメラも違和感なく溶け込んでいたし、テレビ屋の作る映画の「チープさ」がなくて良かった。若手俳優陣の演技面も安定していたなーと思ったら、エンドロールの演技ワークショップの項目に「幕が上がる」の平田オリザの名前が、さすが!(幕が上がるの時は漫画版ちはやふるを参考にしていたそうで。)

 

千年の歴史を持つ古典が元でありながら、壮絶なかるたの取り合いの試合はまるで"拳ではなく魂で殴り合う"ような「競技かるた」(=超体育会系!)。というほとんどの人が知らない世界を取り上げる題材の妙、魅力的な脇役キャラクター・絶妙な恋愛模様の配置はさすがの「大人気コミック」が原作だけあるし、昨年「海街diary」「バケモノの子」ですでにカマしていた広瀬すずの演技の上手さは、俺たち映画ヘッズにとってはいまさら言うまでもなし。ただ前後編という構成のせいか、ところどころ「時間調整」を感じさせる「かったるさ」があり、テンポが緩慢なのは否めず。思い入れがある人には作品世界に浸れていいかもしれないけど。だから「前後編」という映画として歪なシステムは嫌いだ。

 

あとこの作品のオリジナリティって主人公でも競技かるたでもなく、「真島太一」なのかなって。9割いい奴なんだけど、1割くらい◯◯なこと。フィクションの二番手キャラにはなかなかいないこの複雑かつ微妙な割合が、観ている人の心を惹きつけるんじゃないかな。それに「恋仲」とかで少し悪役感のある野村周平がベストマッチなんだよ(笑)。ただそれに関係した幼い頃のある出来事が彼自身の「呪い」になっていて物語のキーにもなっているんだけど、呪いからの「解放」的なクライマックスと「アレ」を渡す順番が逆じゃね?負けてたらどうすんの?っていうので、「問題」がイマイチ解決していないのが(主人公との関係性に関わることなので)非常に引っかかった。この辺は後編でどうなるんだろう。

 

疾走感とビートの効いたPerfumeの主題歌と劇伴も今の時代の青春映画にあっていてよかった、「火花のように 」と絶妙な喩えで試合風景が浮かぶ歌詞をしっかり合わせてくるPerfumeプロデューサー・中田ヤスタカ氏、マジメだなー。(劇伴は別の人)

 

とはいえ「下の句」楽しみです。

 

☆4.0


「ちはやふる -上の句・下の句-」予告

 

スタッフ
監督小泉徳宏

原作末次由紀

脚本小泉徳宏

製作中山良夫市川南

広瀬すず/綾瀬千早
野村周平/真島太一
真剣佑/綿谷新
上白石萌音/大江奏
矢本悠馬/西田優征

製作年 2016年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 111分
映倫区分 G

「ピンクとグレー」感想 "人が本当に分かり合えるなんてことはないんだよ"

原作者のNEWS加藤シゲアキ君はよく宇多丸師匠のタマフルに出ていて、しっかりとした映画ファンなのを知っていて、それでも「ジャニーズによる芸能界モノ小説が原作かー」と侮ってた。けど意外にも期待値を超えて、鑑賞後もズーンと後に残り色々考えてしまう感じでなかなかよかった。

 
一応の個人的ツッコミどころは、引っ越しトラックを手を振り追いかけるようなコテコテの演出、いかにも邦画作品中の「ニセモノ感」のある芸能界シーンの映像・美術セット・脇役、不自然に出てくる実在企業名・商品、などなど。「あれ、行定勲監督ヘタクソになった?」と前半は心配したけど、後半のあの言葉から逆算するにあの辺は全部わざとのはず(笑)なので、基本ツッコミどころ無し!
 
ネタバレになるから詳しく書けないけど、物語の顛末をはじめ、蛍光に浮かび上がるアレを出したり邦画なのにけっこうアグレッシブなことをしていて、やや読めたけど中盤「物語がひっくり返る」感じを久々に楽しめたし、終盤提示されるテーマや終わり方も、邦画にありがちな甘っちょろい感じじゃなかったのもよかった。
 
そう菅田将暉柳楽優弥出演作に間違いはなかった!特に菅田将暉はやっぱりすごい。親しみやすさと軽薄さと怖さ、この役とこの演技は彼しか出来ない。あと実力派若手俳優に囲まれながらも、一見してわかる華のある立ち居振る舞いと納得の演技を見せたジャニーズ中島裕翔君もよかった。役者としてビシっと決めつつもちょっと心配になるくらいの「夏帆夏帆ぶり」に関しては昔からのファンの意見が聞きたいけど(笑) 前半部とのギャップを考えるとこれも「夏帆しかいない」役だった。
 
後半のテンポには疑問が残るも、邦画としては観て損はなし、観ておくべきレベルの映画。角川アスミックエース製作・ポニーキャニオン配給だから大手賞レースに絡んで話題になることもないだろうし、あやうくスルーするところだったので観れてよかった。

映画「母と暮らせば」感想 <戦中、戦後を知っている映画監督があと何人いるだろう>

 

評判がいいのと「小さいおうち」から再びの山田洋次監督&黒木華出演ということで観てきた。

まずこの超ベテラン監督が、お話の下敷きにサラッと「長崎、キリスト教、原爆」っていう誰しも言わないようにしてるネタをぶっこんできたのはすごいなと(笑)「日本におけるキリスト教の代名詞のような街にキリスト教国が原爆を落とした」ってよく知らない外国人が観たらギョッとするんじゃないだろうか。劇中の一節「小倉に原爆投下のはずが天候不順で長崎になり、長崎も同様に中止になりかけたところ、一瞬だけ晴れ間が差して投下された。」論理的に関係性は無いにしてもこの文脈で改めて知らされると色々考えてしまうなー。

 

お話は「原爆で死んだ息子が数年後母に会いに帰ってくる、そして恋人のことも気がかり…」という普遍的なもので、親と子両方の気持ちのわかる親世代はじめ、肩肘張らずに誰しも響くものがあると思う。そういう話の本筋上、基本的に会話が中心なんだけど、当時の生活風景とか、所作がいちいち新鮮だし、吉永小百合二宮和也黒木華、上海のおじさん(笑)はじめ実力派俳優だらけなだけあってその演技の競演にずーっと退屈しなかった。中でも二宮くんのちょっと癖のある演技と、この監督独特の古くさいセリフ回しの若者キャラが当時の時代感にちょうどマッチしていて本当にそういう人物がいるかのようだった。

 

このタイミングでこう撮るかという感じの迫力の映像と音響による原爆描写が新鮮だった。かといって政治的に何かを批判するわけでもなく「戦争をして身近な人が一人死ぬってどういうことか」ってことを物語の中でさらっと見せてくれたのが新鮮だった。戦中を知っている映画監督に、あの戦争を伝えるってそんなに肩肘張らなくていいんだなって教わったかのよう。観てよかった。

 

☆4.0

 


映画『母と暮せば』予告

映画「恋人たち」感想 <決して誠実ではない映画>

かなり評判が良かったので期待をして鑑賞。

 

うーん決してつまらないわけではないけれど、上手くはないよな。映画的に下手クソなところに目を瞑って観客側から歩み寄って「メッセージを拾いに行ってあげる」のはあまり好きじゃない。

そもそも世の中には「群像劇」として混ぜこぜにしてはいけないレベルの「テーマ」もあるような…。主要エピソードで語られるある2つのテーマとそこに描かれる人物の感情には心動かされたし、もっと世間に広く知られるべきで、いま「日本映画」として描く意義があると思うが、「美女水」とか鶏がどうこうとか至極どうでもいいエピソードと混ぜることは決して「誠実な映画」「賞賛される映画」のやり方とは言えないと。橋口亮輔監督には堂々とワンテーマで勝負してほしかった。

あと、そりゃ2時間も「社会のどん詰まりを描いた現代劇」を観ていれば、自分自身の経験や記憶に照らし合わせて心に刺さる、個別の「シーン」や「フレーズ」はあるけれど、それとお話の面白い・面白くない、完成度が高い・高くないとは別に考えるべき。この映画は後者。自分には「全部壊れてます」とかそれっぽい、人に刺さるフレーズやシーンを各所にバラ撒いただけのように思えてしまった。

自分にはちょっと難しかったようです。

 

☆2.0

 


映画『恋人たち』予告編 - YouTube

 

 

 

「悲しみの忘れ方 DOCUMENTARY of 乃木坂46」感想 <娘を持つ親世代にこそ響くのでは>

某冠番組を毎週観ている程度の知識です。

 
最近では珍しくない「アイドルドキュメンタリー」今回 どういう切り口を提示するか心配だったけど、この映画は、アイドルグループの結成から現在までの歩みにメンバー母親の語り(娘への想い)を織り込むという「着想」の勝利だった。これに尽きる。このおかげで"刹那的な"アイドルの物語でもあり、"普遍的な”母娘の物語でもあるという重層的かつ、オリジナルな「映画」になった。これは傑作母子映画「Mommy」に近い感じで、これは年頃の子どもを持つ「親世代」にこそ響くのではないか。本筋がグループの歴史を追うのに駆け足気味、やや平凡だっただけに、これがなかったらどうなっていただろう。
 
大人から課されるグループ内での競争につぐ競争で、必要以上に「自分らしさ」に悩み、苦しむ彼女たち。「きれいっていうのは才能なんだからね」という樹木希林海街diaryの撮影時にあの四姉妹役の若手女優に言ったという言葉をかけてあげたくなった。あなたたちは既に素晴らしいものをもっているじゃないかと。ここは「自分らしさ」とか「オンリーワンであること」が過度に期待される「現代日本社会の縮図」としても誰しも共感できるところではないだろうか。
 
中身としては、監督がPV中心だけあってインタビューパートでのメンバーや、カットインされる風景の美しい切り取り方は大変素晴らしく、アイドルドキュメンタリーなのに映像そのものの品位の高さに惚れ惚れするという不思議な体験をした。加えて、自身が撮ったわけではない「メジャーアイドル数年分の映像資料」を元にドキュメンタリーを作るという無茶なオーダーにもきちんと形にして答えたのにも評価したい。
 
ただアイドルをドキュメンタリーとして撮るときに「大人(運営)」が不自然に出てこないのはズルいなと、この手のを観て毎度思う。「ドキュメンタリー」と銘打っていながらまだ大人の出てこない「ファンタジー」を気取るのですかと。
 
(あと本家もやっているとはいえ)大人数グループだからって数人にフォーカスして映画にするっていうメソッドは「逃げ」だ。当然とっ散らかるのはわかるけど、ギリギリ不可能じゃない人数なんだから、やはり全員の顔と声(コメント)を少しでも入れるべき。だってそういうグループなんだから。タイトルにグループ名を銘打っておいて大多数をクレジットのみで済ますのは酷だ。
 
色々不満もありながらも、ラストのリフレインでの「悲しみの忘れ方」の「答え」(とそれに含まれる不祥事を起こしたメンバーへのちょっとしたどんでん返し)にはグッと来た。