東京映画帝国

”全映画は3つの部分に分かれる” 基本的にネタバレなし、映画館鑑賞作のみの感想[評価/批評/あらすじ]。適度な長さとわかりやすい言葉でのレビューとなることを心がけてます。(☆は最大5。3以上で傑作)

「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」サウスポー ネタバレなし感想レビュー

「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」

みんな大好きボクシング映画、であるがゆえに賛否両論だったからどう着地するか心配だったけど「むむむ!」というポイントもありながら、きちんと終わったし以外とよかったよ!

お話は主人公がチャンプとして栄光の頂点の日に、試合相手とのトラブルが原因で妻を亡くす。そしてライセンス停止、無収入に。妻に頼って大人として父親としても未熟なまま過ごしてきたがために娘とも引き離され、どん底に叩き落とされた男の再起の話。

基本的に想像の範疇のストーリーなんだけど、それでも突然家族を失った父と娘の再生のドラマには否が応でも熱くなるし、主人公が施設育ちで学がないが故に空回り、娘とのすれ違いが深まってしまい「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」と言われてしまうのには、子供も辛いだろうけど父親も辛いのもわかるから、グッとくるものがあった。からのー、最後の娘の言動には泣くよね、確実に泣くよね。

そして下敷きには、銃社会への警鐘・貧困による教育格差などアメリカが抱える問題、リング上の戦い以上のものが描かれていてたのはよかったと思う。これを観ると理屈で「アメリカはフロンティア精神の国だから銃所持は仕方ない」とは一概に言えなくなってしまうな。

もちろんベタのベタでも観ていられたのは、今もっとも出演動向が注目される男の一人、ジェイク・ギレンホールの役作り、レイチェルマクアダムスそして子役の女の子を含めた役者の魅力があったからこそ。この辺のキャスティングに妥協してたら一気につまらなくなってたと思う。  

あえて抑えてたんだろうけど、クライマックスでのエモーショナルさはもう少し欲しかった。あと事件が錯綜してたのが伏線になってたのはよかったかな。

たしかに拙さはあるんだけど、みんなさーボクシング映画のことになるとマジになりすぎだよねー。その辺はボクシングを題材で映画やる以上はつきまとう宿命かね。(そこで競技かるたっすよ…)

 

☆4.0

 

ネタバレもう一言(下記反転)

最大の「むむむ!」ポイントは、ライセンス停止のグレーな処理の仕方、いやちゃんと停止明けるの待とうよ!あと試合中の娘の居場所!そこじゃないでしょ!そこだけはエモーショナルにしてほしかった。ドラマチックに一発KOではなく判定ってのはリアルだし、一瞬もしかしてここまできて審査員買収とかあんのか…と思わせるスリルが増してありだっ

 

サウスポー(字幕版)

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サウスポー Blu-ray

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たと思う。


Southpaw Trailer 2015(Jake Gyllenhaal&Rachel McAdams&Forest Whitaker)

<カギかけろ>「コップカー」ネタバレなし感想レビュー

 

家出少年二人に、パトカーを盗まれるコワモテ保安官の話。

パトカーを盗まれたのは完全に保安官の不注意。感想としては「カギかけろ、アホか」の一言で以降の展開に急速に興味を失い、自分の保安官への渋カッコいい度はゼロに。

当方、ケビン・ベーコンリテラシーが低いものですいません。ケビン・ベーコンを好きな人の感想を読むと、盗難以降に彼の醸しだす絶妙にシュールな空気、愛らしさをニヤニヤしながら観るべきものだったようで。自分が「真面目な話、もしくはサスペンス」だと思って挑んだのがまずかったみたい。

でも80'sっぽいギラギラしたオープニングクレジットのセンス、「家出少年と追いかける警官」というシンプルかつ無駄のない構成、80分台のタイトな尺、半分はいい加減で変な話なのに品のある撮影はよかった。あとあの小学生くらいの少年時代の機微、と言うと聞こえがいいが、男子のやりそうなしょーもない(自分に都合のいい)言動・行動・思考をとてもうまく再現、切り取っていたのに感心。演技とは思えなかった。脚本家は小学生か?(笑)

そう意外や意外、「ジュヴナイル映画度」がかなり高いのでおすすめです。

☆3.0

「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」サウスポー ネタバレなし感想レビュー

「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」

みんな大好きボクシング映画、であるがゆえに賛否両論だったからどう着地するか心配だったけど「むむむ!」というポイントもありながら、きちんと終わったし以外とよかったよ!

お話は主人公がチャンプとして栄光の頂点の日に、試合相手とのトラブルが原因で妻を亡くす。そしてライセンス停止、無収入に。妻に頼って大人として父親としても未熟なまま過ごしてきたがために娘とも引き離され、どん底に叩き落とされた男の再起の話。

基本的に想像の範疇のストーリーなんだけど、それでも突然家族を失った父と娘の再生のドラマには否が応でも熱くなるし、主人公が施設育ちで学がないが故に空回り、娘とのすれ違いが深まってしまい「ママじゃなくてパパが死ねばよかったのよ!」と言われてしまうのには、子供も辛いだろうけど父親も辛いのもわかるから、グッとくるものがあった。からのー、最後の娘の言動には泣くよね、確実に泣くよね。

そして下敷きには、銃社会への警鐘・貧困による教育格差などアメリカが抱える問題、リング上の戦い以上のものが描かれていてたのはよかったと思う。これを観ると理屈で「アメリカはフロンティア精神の国だから銃所持は仕方ない」とは一概に言えなくなってしまうな。

もちろんベタのベタでも観ていられたのは、今もっとも出演動向が注目される男の一人、ジェイク・ギレンホールの役作り、レイチェルマクアダムスそして子役の女の子を含めた役者の魅力があったからこそ。この辺のキャスティングに妥協してたら一気につまらなくなってたと思う。  

あえて抑えてたんだろうけど、クライマックスでのエモーショナルさはもう少し欲しかった。あと事件が錯綜してたのが伏線になってたのはよかったかな。

たしかに拙さはあるんだけど、みんなさーボクシング映画のことになるとマジになりすぎだよねー。その辺はボクシングを題材で映画やる以上はつきまとう宿命かね。(そこで競技かるたっすよ…)

 

☆4.0

 

↓ネタバレもう一言(下記反転)

最大の「むむむ!」ポイントは、ライセンス停止のグレーな処理の仕方、いやちゃんと停止明けるの待とうよ!あと試合中の娘の居場所!そこじゃないでしょ!そこだけはエモーショナルにしてほしかった。ドラマチックに一発KOではなく判定ってのはリアルだし、一瞬もしかしてここまできて審査員買収とかあんのか…と思わせるスリルが増してありだっ

 

サウスポー(字幕版)

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サウスポー Blu-ray

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たと思う。


Southpaw Trailer 2015(Jake Gyllenhaal&Rachel McAdams&Forest Whitaker)

<ルベツキが映像の未来を見せてくれた>「レヴェナント 蘇りし者」ネタバレなし感想レビュー

朝夕のマジックアワーだけで撮影し、人馬が駆け抜けるのを180度舐めるように追いかけ、アメリカ大陸の雄大かつ恐ろしさすら感じる大自然を見事に切り取り、お得意の超長回しもカマす、エマニュエル・ルベツキの撮影が素晴らしかった!(と監督もね)

 
ドローンが数世代進化して人間の周りを普通にグルグル飛べるようにならないと不可能な「構図」を人力で実現、現状人間にできる技を超えていることに感嘆、ため息の連続。さすがアカデミー賞スリータイムチャンピオン、映像の「未来」を見せてくれていた。いい意味で「スカイリム」みたいな最近の3DCGゲーム(超広いフィールド、現実離れした精緻かつ美麗なグラフィック、ゲームだからどんなアングル・構図も可能)を遊んでいるようにワクワクしながら楽しめた。
 
あと「ウルフ・オブ・ウォールストリート」につづいてまさか2作連続でレオナルド・ディカプリオによる決死のハイハイ(匍匐前進)が見られるとは思わなかった(笑)という冗談はさておき、もはやアカデミー賞主演男優賞を「力技」で持っていったような演技には圧巻でした。
 
個人的に良かったところは先住民側の持つ弓矢という武器の描写、「弓矢はどうやらすごいらしい」ということは以前から認識してはいたけど、銃を持ったアメリカ人側を時に圧倒するまでとは思わなかった。四方八方、カメラの周りをヒュンヒュンと弓が飛び交う冒頭の戦闘シーンが、視覚的に最も恐ろしく興奮した戦闘シーンだった。
 
そしてハイイログマとの戦い。CGとわかっていても、ひと思いに息の根を止められるでなく、なす術なく弄ばれるように攻撃される感じがリアル、これ一番痛いやつー!観てて痛い!
 
アメリカ人の先住民への贖罪意識とかいうテーマはどうぞ、ご勝手に。監督がメキシコ人で自国人じゃないんですけどいいんですかね。
 
あとグラスの回復力すごすぎじゃね?とは思ったけど、実話だし冬だからなんとかなったのかと納得、全体としては大満足でした。
 
☆4.0
 

"教会は何でもできる" 「スポットライト 世紀のスクープ」ネタバレ無し感想レビュー

言わずと知れたアカデミー賞作品賞受賞作。豪華俳優陣で一定のレベルを超えているし既に多く語られている褒めポイントには概ね同意だけど、べた褒めばかりもつまらないのであえての変化球。

 
神父による児童への性的暴行、教会上層部の隠蔽。冒頭、警察署のシーン数分でこれから語られることの根深さ、凶悪さをすべて説明したスマートな筆致とは裏腹に、以降は愚直に、どまんなかに、鈍重に、「スポットライト」チームの教会告発までの地道な取材の過程を描いていく。わかりやすい娯楽性、爽快感は皆無、アカデミー賞という「記録」は獲ったが「記録にも記憶にも残る傑作」かと言われると難しい。
 
マジメすぎるのだ。なので映画の評価もどまんなか3.5点どまり。もちろんスポットライトチームの功績への評価とは別です。
 
監督いわく、スポットライトチームの発表と努力を汚したくなかったからエンタメ要素を省き、ストレートに描いたとのことで、要は映画で彼らの真摯なジャーナリズム(新聞発表)を再現したかったんだろう。結果アカデミー賞を獲ったし、それはまぁ理解はできる。しかし色恋要素を入れろとは言わないけど、それでも脚本、編集、音楽、撮影とかでもっと娯楽性と両立する「記録にも、記憶にも残る一作」にするためにやれたことはあったんじゃないか、厳しいようだけど「この題材でマジメに作るだけならわりと誰でもできない?」と思ってしまった。
 
「社会に伝えるべきことを伝えるため」だからと映画が、飾り気のない「再現ビデオ」に徹してしまうことが映画として、正しいことなの?と。(本当、これ書いてる自分何様?って感じだけど…)
 
☆3.5
 

<まさに地獄巡り> 「ボーダーライン」ネタバレなし感想レビュー

「複製された男」「プリズナーズ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と「007スカイフォール」のロジャー・ディーキンスの撮影で観ないわけにいかないので鑑賞。

 

いやーメキシコが中東のように移動時にシボレー防弾仕様の四駆で隊列組んで爆走しなければならないほどヤバイ所とは思わなかったしアメリカのちょい南だからって舐めてた、これメキシコ観変わるわ…。

 

誘拐事件突入捜査のスペシャリスト、エミリーブラント演じる女主人公がある事件をきっかけに、メキシコ麻薬カルテルソノラの捜査に参加することに。組織の見せしめであちこちに死体がぶら下がっているようなおぞましい街ファレスで、よくわからないうちに、よくわからないメンバーによるよくわからない超法規的捜査にズルズルと引きずり込まれる感じは地獄から地獄、まさに地獄巡り。ベタだけど何も知らない主人公と観客がシンクロして一緒に連れ回される感じはストレス、緊張、不快でしかないが、その臨場感が最高。自分はタバコ吸わないけど、彼女の禁煙破らないとやってられない感じ、わかる(笑)

 

ただ終盤の転換点以降は「あ、それ一人で行くの?そういう種類の映画なの?」と引いてしまった。実はこれはこの人の物語だったんだーー!!はさすがに無理ない?

 

☆3.0

 


町山智浩が映画『ボーダーライン』と『カルテル・ランド』を語る


4/9公開 映画『ボーダーライン』メイキング映像(ビジュアルデザイン)


『ボーダーライン』予告

 

監督ドゥニ・ビルヌーブ

製作ベイジル・イバニク

エドワード・L・マクドネル

リー・スミス
サッド・ラッキンビル
トレント・ラッキンビル
製作総指揮ジョン・H・スターク
エリカ・リー
エレン・H・シュワルツ
脚本テイラー・シェリダン撮影ロジャー・ディーキンス美術パトリス・バーメット衣装レネー・エイプリル編集ジョー・ウォーカー音楽ヨハン・ヨハンソン音楽監修ジョナサン・ワトキンス

キャスト
エミリー・ブラント/ケイト・メイサー
ベニチオ・デル・トロ/アレハンドロ
ジョシュ・ブローリン/マット・グレイバー
ビクター・ガーバー/デイブ・ジェニングス
ジョン・バーン/サルテッド
ダニエル・カルーヤ/レジー・ウェイン
ジェフリー・ドノバン/スティーブ・フォーシング

原題 Sicario
製作年 2015年
製作国 アメリカ
配給 KADOKAWA
上映時間 121分
映倫区分 R15

「リリーのすべて」感想 "何を着ていようと、眠りの中で見る夢はリリーの夢よ"

最高だった。これが世界初の性別適合手術を受けた人の物語とか奇跡かよ。リリーの目覚めてしまうきっかけ、下着姿を見せた時の奔放な妻の最初の反応、彼女を書いた絵が思いがけず高反応で売れる、など「事実は小説より奇なり」と日記も残ってるだけあって実話ならではの予定調和を無視した本当の「リアリティ」に結末を知っていても引き込まれた。

 

実話ベースということで「かったるさ」をある程度覚悟していたけど、意外にも序盤から「いきなりそこ行くんだ!?」という感じで、ポンポンとテンポが良かったのにも好感。ダラダラしがちの物語を誘惑に負けずにきっちり「2時間」に収めていたのが良かった。

 

主人公アイナーの精神病だの何だのと言われ命の危険を犯しながら「自分自身に正直であることを追求する姿」には、時代を超えて誰しも心打たれるはず。アイナー→リリーは最初の段階こそ少し心配だったが、それ以降は納得の出来。衣装さんのテクニックもあるだろうがこの人を演じられるのはエディ・レッドメインこの人しかいない。

 

主人公とは、最愛の人である前に、友人でもあり、同業の戦友でもあるゲルダ。「夫だった人に夫を奪われながらも、それを手助けする」という「献身的」という陳腐な言葉では言い表せないほど、複雑な感情を持って夫を支えた妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルも素晴らしかった。斎藤工の言っていた「受け」の演技の大切さとはこういう事か。(特殊な事情から見た目上の変化があり自身を追い込める主人公役より、それを「受ける」周りの人間の演技こそ重要ということかな)

 

ちょっとまとまらないけど、マイナス要素もほとんどないので満点です。

 

☆5.0

 


映画『リリーのすべて』予告編


町山智浩 映画「リリーのすべて」 トム・フーパー監督 たまむすび

監督トム・フーパー

製作ゲイル・マトラックス

アン・ハリソン
ティム・ビーバン
エリック・フェルナー

エディ・レッドメイン/リリー・エルベ
アリシア・ビカンダー/ゲルダ
ベン・ウィショー/ヘンリク
セバスチャン・コッホ/ヴァルネクロス
アンバー・ハード/ウラ

原題 The Danish Girl
製作年 2015年
製作国 イギリス
配給 東宝東和
上映時間 120分
映倫区分 R15+