「キャロル」感想 <うつくしさとあざとさ>
同性愛云々は別にいいんだけど、みなさん美女同士なら不倫はいいんですかね?
「不倫っていっても、夫とはすでに調停中で離婚はほぼ避けられないのは確定、子どもとも別居中で子どもの生活に不都合があるわけではない」って、微妙に叩かれないラインで保険をかけてる感じがあざといんだよなー。でもそれ不倫ですから!と思ってしまった。そこにテレーズと出会うってタイミングよすぎない?(まーフィクションで倫理的な良し悪し云々を言うと、じゃあ泥棒とか犯罪者が主人公の映画はどうなんだ?と言われたら何も言えないし、その辺ツッコむのも野暮なのは重々分かってるけど。)
"俺たちの"ルーニー・マーラーとケイト・ブランシェット"様"、メイン女優二人の競演、隅々までこだわりを感じる品のいい美術・衣装、フィルムの深みを生かした撮影の美しさはみなさんが書かれている通り、どれも一級品。
ただ物語的に乗れない所多数、多数。行き先を決めない旅行って何?逃避行?女学生かよ。あとあのスパイみたいなやつ。え、そういうリアリティなの?とずっこけてしまった。調停シーンでキャロルが泣いた後に切る「啖呵」も意味不明、圧倒的に立場が悪いのはどっちだよ。
あと(あえてのサラッとなんだろうけど)同性愛に関して二人と社会との衝突が、ほとんどなく「時代考証」としてこれでいいの?こんな程度と思われない?と逆に心配に思った。
最近、世間的な話題で不倫について考える機会が多かったため(笑)厳しめです。にしても評価高すぎない?
☆3.0
スタッフ
監督トッド・ヘインズ
製作エリザベス・カールセン
スティーブン・ウーリー
クリスティーン・ベイコン
製作総指揮テッサ・ロス
キャスト
ケイト・ブランシェット/キャロル・エアード
ルーニー・マーラ/テレーズ・ベリベット
サラ・ポールソン/アビー・ゲーハード
ジェイク・レイシー/リチャード・セムコ
カイル・チャンドラー/ハージ・エアード
原題 Carol
製作年 2015年
製作国 アメリカ
配給 ファントム・フィルム
上映時間 118分
映倫区分 PG12
受賞
第88回 アカデミー賞ノミネート(2016年)
第73回 ゴールデングローブ賞ノミネート(2016年)
第68回 カンヌ国際映画祭(2015年)
「オデッセイ」感想 "科学の力で乗り越える!"
原題THE MARTIAN(火星の人)からけったいな邦題に変更、ゴールデングローブ賞の受賞(コメディ部門)でコメディって初めて知って、色々見くびっていたけど、そこはリドリー・スコット監督だけあってしっかり「ゼログラビティ」「インターステラー」に続くドラマ性のある正統派宇宙大作に仕上がっていて、大満足! 物語の都合上、ド派手なアクションとかはないけど、室内でのほぼ非CGのセット撮影が多い分、逆に最近トレンドの「マッドマックス怒りのデスロード」、「スターウォーズ フォースの覚醒」などの"アンチCG"の流れにもバッチリ乗っていたし、アクションは少なくとも何だかんだでラストシークエンスには「ザ・ウォーク」に続いてまたも"手に汗握った"し最高だった!
前述の二つの宇宙映画との違いは、まずマット・デイモン演じる主人公の根アカ的明るさ、観ている方が元気をもらえるような「かなりの前向きさ」は「キャッチミー・イフユー・キャン」レオナルド・ディカプリオの天才詐欺師や「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」クリス・プラットのスターロードみたいで、シリアスな状況もありながら観ていてずっと楽しかった。やっぱりポジティブな筆致の映画はいいね。
もう一つはパワーオブラブでモヤッと話を畳んだ「インターステラー」とは違い、あくまで問題を理詰めで解決していく<科学礼賛・科学肯定>で押し通したこと。文系的に政治的しがらみや感情に流されずに、現実をみて中国との協力をするなど、理系ならではの「イデオロギーの無さ」が「この映画のイデオロギー」なんだと思う。そして「同じ地球人の仲間を見捨てずに一致協力して救い出す」というのも、千数百年前の宗教絡みでまだゴチャゴチャ揉めている今の時代へのアンチテーゼとして狙ってるのかと思った。
あと劇中の技術者たちが受ける「不可能?でもやるんだよ」的な無茶ブリを"知恵と努力と力技"でなんとか解決していく様は、プロフェッショナルモノ映画としても面白いし、社会人なら誰しも共感できるポイントでしょう。
個人的ツボは背中にGoPro、腕にスマホっぽいガジェットっていう「SF映画」らしからぬ小道具の微妙なダサさ。でも「これは限りなく現代と地続きのお話しなんですよ、という時代設定と狙い」を誰にでも分かりやすく見せるために「旧来のSF映画で唯一想像できなかった」といわれる鬼門の機器"スマホ"をあえて利用したのが面白い。その反面、宇宙服は最近のSF映画のトレンド通り、スリムで洗練されたスタイルなのが、絶妙だ。
あ、ジャガイモ買って帰ろう。まさか映画を観てジャガイモに愛着を持つ日が来るとは…。
☆4.5
↑ナニコレ、知らなかった!手が凝んだ特別映像。
「サウルの息子」感想 <手汗の次は、目がどっと疲れる体感型映画>
期待してたんだけど、良くも悪くもユダヤ人(収容所)ものなので、ユダヤ人とその歴史的歩みにシンパシーを持てる人 か、そういうガチな光景を観るのが好きな人向け。
冒頭の人類史に残る蛮行と、それを観せるTPS視点、狭い画角・アスペクト比、浅い被写界深度、長回しなど撮影技法の組み合わせからくる一緒にその場にいるかのような没入感、化学反応、インパクトは完全に認める。けど主人公の行動がイマイチ突飛だし、後半の錯綜する主人公と周りの反応とか一歩間違えば死罪なのに甘いし、セキュリティ・管理がわりとガバガバなのとかリアリティなさすぎじゃないですか。冒頭の技法ネタで出落ち感はあり、さして話運び諸々上手くはないよね。
この映画を観て70年前のユダヤ人虐殺に心を痛めておしまいにするのではなく、現在進行中の大小様々な人道・人権問題に目を向けるべきで、そういうメッセージかなって。
でも期待外れ。目がどっと疲れた、没入はしていたんだろう。
☆2.0
町山智浩「サウルの息子」早くも2016年ベスト! たまむすび
"愛はすべてを解決するけど、愛が壊すこともある"「ビューティー・インサイド」ネタバレなし感想
評判がすこぶるいいので鑑賞。アジア映画は見逃すとレンタルなかったりするからなー。
「目覚めるたびに毎日顔が変わってしまう男の恋」というのはタイムリープモノっぽい。自分はそういうの大好きなんで一気に引き込まれた。SFチックなネタと恋愛、洒落たタッチという点では、みんな大好き「アバウト・タイム」に近い感じかな。でもあくまでファンタジーに終始したそれとは違い、一見荒唐無稽な話を地に足をつけて大真面目かつ緻密にやりきっていたのでラブストーリーなんだけど、男が観ても普通に楽しめた。
物語としては奇をてらわずオーソドックス、ただ中盤以降のある展開には「そこを突くか、たしかになー!」とそのリアルさには唸らされた。(これぞ韓国映画のあなどれなさだな。普通に"甘く"終わってくれてもよかったんだぜ…)
主人公を韓国の人気俳優21人を含む123人!の俳優が演じるだけあって、その演技の競演にまったく飽きず、これは数こそ正義、数の暴力(笑)、「海にかかる霧」のおっちゃん船員役の人もいるし、韓国映画好きの人はもっと楽しめそう、本当に唯一無二だわ!東芝とインテルのCMが原案なのに、すごいのを韓国に撮られちゃったなー。そして123人の主人公に対するヒロイン、ハン・ヒョジュの存在感も負けず劣らず、とてもかわいらしく、美しい!
あとスシとかイス?とか日本ネタが多くて素直に嬉しい。カルチャー面では好きでいてくれてるのかな。そして我らが上野樹里の登場が思いのほか良い場面で「おー!!ここでくるか!」とびっくり、やや浮いてる感もふくめて納得の演技。ただ難点は他の人も書いている通り、重要シーンであからさまに「イケメン俳優」ばかりでなんだかなー。イケメンならいいのかよ!って思っちゃう。ま、とんでもない容姿の日もあったはずでその辺の扱いが甘かったかな。
あと、主人公の職業柄多く出てくるオートクチュール家具など美術や撮影、衣装のセンスがとてもよく画面の隅々までオシャレで綺麗だったので、ミニシアターではなく大スクリーンで観たかったなー。
韓国映画の名品がまた一つ。その一言。
☆4.5
The Beauty Inside Full Version
元ネタ。
「ザ・ウォーク」感想 <テロか、アートか>
どこのレビューも手汗、手汗ってナンボのもんじゃいと思っていたけれど、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス監督作なら観ないわけに行かない。特に予備知識なく観たから、ワールド・トレード・センター戦でのワイヤー上の展開には「え!えー?」と驚きの連続でいつのまにかに夢中に。気づいたら「本当に」手汗をかいていた…。
「絶対不可能だ、それでもやる。」お話的には純粋に夢を追いかける若者の物語であり、中盤は集団犯罪ものっぽくスリルがありテンポもいいし、ラストの警官とのやりとりは最高。しかし「世紀の芸術的クーデター」と彼が言うようにその夢が基本的に無害なだけで、当然ながら違法だし、入念な下見や内通者探し、ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる主人公の狂気じみた煮詰まり方など、見方を変えればその過程はテロリストのソレそのもの。舞台が舞台だけに、テロなのか、アートなのか考えてしまって「手放しには」楽しめず、ずっと不思議な緊張感を味わっていた。
そしてあの日あの時、世界貿易センタービルが狙われ、なぜああもアメリカで騒がれ、ショックを与えたのか、その一端が分かる終盤のセリフにニヤリ。「わかってるよな?」という感じで変に事件を説明・描写しなかったのがよかったけれど、(今後、)アルカイダによる911同時多発テロ事件を知らない人が観たとしてどうなんだろう。今は考えにくいけど、その辺の文脈がわかるかどうかで評価が分かれそう。
それでも体感型映画の良作なのは間違いなし、本当に映画館で観てよかった!申し訳ないけどテレビやPC画面じゃ意味ないなー。
☆3.5
「白鯨との闘い」感想 "地球は神からの預かりもの、望むようにしていいのだ"
クリス・ヘムズワースとロン・ハワード監督の「RUSH/プライドと友情」が好きだったので鑑賞。
捕鯨ネタって日本人的にはなんかノレないなーと思いながらも、中身は意外と何かと(神の名の下に)自己を正当化し、地球を我が物のように使う人間の傲慢さに警鐘を鳴らし「キリスト教にガンガン冷や水を浴びせる」っていう自分的に好きな内容だったので楽しめた。また人間への怪物からの警鐘という意味ではギャレゴジや平成ガメラ映画のようで、白鯨はゴジラと思うとすんなり理解。
ただ実話ベースである以上、映画の肝である<白鯨>は「畏怖を与える怪物でもあり、ただの動物でもある」という中途半端かつ微妙なバランスの存在に描かなければならなかったのが、観客には退屈に思えてしまい、映画的に苦しかったポイントかと思う。この辺は実話モノ映画の宿命で仕方ないかな。
あまり描かれることのない19世紀石油時代前の微妙な時期だけあって、実際の船出までのビジネス的なやりとりや船乗りの仕事とか、基本的にボート一つ、銛一つで行うという捕鯨のやり方など初めて見るようなことばかりで新鮮に楽しめたし、当時のまだまだ汚くて暗い生活風景も興味深く観ることができた。にしても鯨油はコスパ悪すぎだろ、土から油が出てよかったな。
事前評判でドラマの盛り上げが弱いのを知っていたので、自分で増幅しながら観てちょうどよかった(笑)けどポラード船長が気の合わない主人公との初対面でも「アドバイスがあれば言ってくれ」と述べたように悪者一辺倒じゃない描き方はよかったし、その辺のリアリティが実話モノの強みだね。あとは衝撃の秘密という触れ込みの後半の展開は、さすがに今観ると読めてしまったのが難点。でも美術の再現、鯨の考証、後半サバイバル部の役者の役作りはさすがで、誠実かつ真摯に作られているのは伝わってきた。
原題と邦題の関係のように「白鯨」が主題か否か、考えながら観るとおもしろい。
☆3.5
In The Heart Of The Sea – Official Trailer - Official Warner Bros. UK
「ピンクとグレー」感想 "人が本当に分かり合えるなんてことはないんだよ"
原作者のNEWS加藤シゲアキ君はよく宇多丸師匠のタマフルに出ていて、しっかりとした映画ファンなのを知っていて、それでも「ジャニーズによる芸能界モノ小説が原作かー」と侮ってた。けど意外にも期待値を超えて、鑑賞後もズーンと後に残り色々考えてしまう感じでなかなかよかった。